保証契約による債権回収

 

 連載記事「債権回収のポイント」1回目の記事は,「保証契約による債権回収」です。

この連載は基本的にQ&A方式で書いていこうと思います。

 

 

保証契約,保証債務の特徴はどのようなものですか。

保証人の保有するあらゆる財産を担保とすることができる点に特徴があります。

 

 

債権回収を確保する手段は様々存在しますが,その内の一つとして保証人を付けるという方法があります。

 

このように債権回収を確保として担保を付ける方法としては他に典型例として不動産に抵当権を設定するというものが挙げられます。

 

 

両者の違いを説明すると,保証契約の特徴がわかると思います。

 

 

まず,不動産に抵当権を付けて不動産を担保に取る方法から説明します。仮に債務者Yのある債務について,Z1がその所有する不動産に抵当権を設定したとします。この場合に,債務者Yが当該債権について支払いを怠ったとすると,債権者=抵当権者X1は,抵当権を裁判所を通じて実行し,Zが所有する不動産を競売にかけてその売却代金から優先的に弁済を受けられます。

 

 

当然ですが,仮に上記不動産の売却代金で債権額全額の支払いを受けるには足りなかったとしても,債権者X1は,抵当権が設定されている不動産以外のZ1所有の財産に対して強制執行したりすることはできません。

 

 

あくまでZ1は特定の不動産を担保としてXに提供しているに過ぎず,Z1には当該不動産の価値をもってX1に弁済をするということ以上に義務がないからです。この点を捉えて,Z1は「物上保証人」と呼ばれます。

 

 

一般の保証の場合は異なります。仮に上記の例で保証人Z2がいたとしましょう。このZ2は保証契約を締結したことにより,保証債務というY(主債務者と呼ばれます)の主債務とは別の債務を負うことになります。

 

 

このようにZ2は債務を負うことになるため,この債務を弁済するために,主債務者であるYと同様,自己の全財産をもってXに弁済をしなければならない立場にあるのです。

 

 

したがって,例えば,Z2がZ1と同じように不動産を持っている場合,XはZ2に支払いを請求する裁判などを提起して勝訴判決を得た後,当該不動産を競売により売却してその売却代金から債権の弁済を受けることが可能です。

 

 

さらに,もしこの不動産売却代金だけでは債権全額の弁済を受けるに満たない場合は,XはZ1の場合とは異なり,Z2の他の財産に強制執行することも可能です。

 

 

Z2が銀行に預金をもっていれば,この預金債権を差し押さえて,ここから弁済を受けることもできることになります。

 

このように,保証人の義務は重いものとなっています。

 

では,保証人を付ける方が,第三者の不動産に抵当権を付ける(物上保証人を付ける)よりも有利なのですか。

そうとは言い切れません。抵当権者には優先弁済を受ける権利が認められるためです。

 

先に見たとおり,確かに保証人は物上保証人よりも広い義務を負っています。保証人は,物上保証人と違い,特定の不動産だけではなく,全財産をもって債権者に弁済する義務を負うからです。

 

そのため,一見すると保証人を付けたほうが有利のように思えます。

 

 

しかし,抵当権には,優先弁済を受けられるというメリットがあるのです。先の例で続ければ,物上保証人Z1が他にも自分で借金をしていたとしましょう。そして,Z1はその他の債務を払うことができず,この債権者X2が訴訟をして勝訴し,Z1には抵当不動産以外にめぼしい財産がなかったため,X2は,この不動産を競売にかけたとしましょう。

 

 

この場合,債権者X1は同じ不動産に予め抵当権を付けているため,競売による売却代金から優先して弁済を受けることができます

 

 

例えば,X1及びX2がそれぞれ1000万円の債権を有していたとし,Z1の抵当不動産の価格が1500万円だったとしましょう。この場合,X1は抵当権者として優先的に売却代金から弁済を受けられますから,1000万円全額回収できます。

 

 

ところが,X2は残りの500万円しか回収できないということになるのです。この点で,X1は有利なのです。

 

 

では,同じような事例で,X1がYに対する1000万円の債権についてZ2を保証人に付けていて,Z2は他にX2からも1000万円借金していたとしましょう。Z2には1500万円の価値の不動産しか目ぼしい財産はありません。

 

 

X1はYが支払いができなかったため,Z2に訴訟提起をして勝訴し,Z2の所有不動産に強制執行し,同じようにX2も自己の債権回収のためこれに参加したとしましょう。この場合,X1は,上記の例と異なり,抵当権を有しているわけではありませんから,当該不動産の売却代金から優先的に弁済を受ける権利を持っていません。

 

 

したがって,X1とX2とは平等に取り扱われ,この場合,両者とも750万ずつしか回収できません。X1としては抵当権を持っていた場合に比べ,250万円の回収漏れの不利益を受けてしまうのです。

 

 

保証は責任範囲が広いとはいえ,保証人が保証した債権者に対し,他の債権者よりも優先して弁済しなければならないということにはならないため,この点には注意が必要です。

 

 

保証人と連帯保証人にはどのような違いがあるのですか。

保証人と異なり,連帯保証人はいわゆる「催告の抗弁」と「検索の抗弁」を行使できないため,一般には債権者にとって連帯保証人を付ける方が有利と考えられています。

 

保証人も連帯保証人も主債務とは別の保証債務を負い,自己の全財産をもって債務を弁済する義務を負う点では違いはありません。

 

 

しかし,保証人は,例えば,債権者が主債務者に請求せずに,いきなり保証人に対して弁済を求めてきた場合,「まずは主債務者に請求しろ。それまでは支払わない。」と言って,債権者が主債務者に請求をするまでは支払いを正当に拒絶することができます。

 

 

また,もし保証人から上述のように主債務者への請求を求められたのに,債権者がこれをしなかったとしましょう。

 

 

そして,この請求を怠ったことにより債権者が主債務者から債権全額の弁済を受けられなくなった場合,仮に債権者が直ちに主債務者に請求していれば,弁済を受けられた限度で保証人は自己の義務を免れることができます。

 

 

つまり,債権者が主債務者への請求をもたもたしていたため,主債務者の財産が300万円減少してしまったら,その分は保証人が支払う必要がないということです。

 

 

これを「催告の抗弁」と呼んでいます。

 

 

次に,仮に債権者がいきなり保証人の財産に強制執行してきた場合は,保証人は,主債務者に執行容易な財産があることを証明すれば,まず主債務者に対して強制執行すべきことを主張することが可能です。

 

 

これにより,債権者が先に主債務者の財産に強制執行をしない限り,保証人は正当に債権者からの強制執行を拒絶できます。

 

 

また,保証人が債権者に対し,主債務者に強制執行すべきことを要求したにもかかわらず,債権者がこれを怠ったとします。

 

 

これにより,債権者が主債務者から債権全額の弁済を受けられなくなった場合,保証人は,債権者が直ちに主債務者の財産に強制執行をすれば支払いを受けられたであろう限度でその義務を免れることができます。

 

 

仮に,債権者が強制執行をもたもたしていたために,執行できる財産が散逸して300万円分失われたら,その分は保証人は負担しなくて良いということです。

 

 

これを「検索の抗弁」と呼んでいます。

 

 

以上に対し,連帯保証人の場合は,上記「催告の抗弁」も「検索の抗弁」も行使することができません

 

 

つまり,債権者は,主債務者を置いておいて,いきなり連帯保証人に対して請求することができますし,連帯保証人を訴え勝訴した後,連帯保証人の財産にいきなり強制執行をすることもできるのです。

 

 

この点で,債権者にとっては連帯保証人を付けた方が債権担保としては簡便であると言えるでしょう。主債務者の状況を考慮せずに,連帯保証人が執行しやすい価値の高い財産を持っていれば,それをもって回収を図れるからです。

 

 

保証人から見れば,連帯保証の方が義務がより重いと考えるべきです。

 

 

取引上,社長の個人保証などを求める際に大抵連帯保証であるのはこうした理由が影響しています。

 

保証人または連帯保証人が複数いる場合に,さらに違いがありますか。

あります。連帯保証人の場合,いわゆる「分別の利益」を得られませんので,この点でも保証人より責任が重くなっています。債権者からみれば,連帯保証人を付けた方が良いという事になる特徴です。 

保証人の場合,たとえば,H1とH2が1000万円の債務を保証したとしましょう。そうすると,それぞれの保証債務は分割債務と言って,頭割りで分割されます。

 

 

つまり,この場合,H1とH2はそれぞれ500万ずつ保証したことになり,裏を返せば,債権者はそれぞれに対し500万円ずつしか請求できないということになります。

 

これを,保証人には「分別の利益」があると表現します。

 

 

これにより,仮にH1が保証債務を履行できない場合(無資力の場合),債権者が回収できないという不利益を受けます。

 

これを,保証人の無資力の危険を債権者が負うと表現します。

 

 

では,連帯保証人の場合はどうでしょうか。

 

連帯保証人の場合,この「分別の利益」を受けられません。つまり,R1とR2が1000万円の債務を連帯保証した場合,R1もR2もそれぞれ1000万円ずつ債権者に支払う義務を負います。

 

 

もちろん,債権者はそれぞれから1000万円ずつ支払いを受け,合計2000万円を懐に収められるわけはありません。したがって,例えば,債権者がR2に全額請求して,R2が全額払ってくれれば,もはや債権者はR1には請求できません。

 

 

この場合,R2が内部の負担割合(何もなければ平等に頭割り)に従い,例えば5割をR1に請求(求償)することになるわけです。

 

(なお,これは保証人も同じですが,保証人も連帯保証人も最終的には主債務者に全額求償できます。本来の債務者は主債務者ですから,保証人に負担部分はないのです。もちろん,主債務者に支払い能力がなければ求償請求したところで意味は無いわけですが。)

 

 

ここで,保証人の例同様,R1が無資力だった場合,どうなるでしょうか。債権者は資力のあるR2に1000万円全額を無事に払ってもらいました。そこで,R2はR1に半分の500万円を求償します。

 

 

しかし,R1は無資力者で,支払いができません。そうすると,R2が回収し損ねることになります。

つまり,この場面では,R1の無資力の危険を,今度は債権者ではなく,連帯保証人であるR2が負っていることになるのです。

 

 

以上から,連帯保証の方が債権者の保護に厚いということがご理解頂けると思います。

 

相殺による債権回収

 

法律上の相殺というのはどういうものですか。

相殺は,意思表示により自己が相手方に対して有する債権(自働債権)と相手が自己に対して有する債権(受働債権)とを対当額で消しあうことを指します。

 

例えば,Aが取引先Bに1000万円の貸付債権を有していて,BがAに対して500万円の売掛を有していたとしましょう。

 

この場合,お互いが現実に支払うのは時に無意味な場合があるでしょう。その場合に,「これらの債権を対当額で相殺します」という意思表示のみで,両者の債権を対当額で消しあう効果を認めたのが相殺という制度です。なお,通常相殺では,「対等」ではなく「対当」の文字を使用します。

 

 

この相殺をすることにより,自働債権については,相手の弁済行為なくして,自動的に取り立てたのと同じ効果を得られます。上記の例で言えば,Aが相殺すると言えば,AはBから自動的に500万円の限度で債権回収したのと同じ効果を得られるわけです。

 

この「自動的に回収できる」という効果は,いわば担保的に機能するため,これを「相殺の担保的機能」ということがあります。

 

 

反対に,受働債権については,自動的に弁済したのと同じ効果が生じます。上記の例で言えば,AはBに対して500万円の買掛けについて弁済したことになるわけです。

 

このように,債権の回収と債務の弁済を現実には行わずに,意思表示だけで行ったのと同じ効果を生じるというのが相殺の特徴です。

 

 

 

相殺はどのような場合に認めれるのでしょうか。

相殺は,自働債権と受働債権が対立した関係にあり,これらの種類が同種で,かつ,自働債権の弁済期が到来している(支払期日を過ぎている)場合に行うことが可能です(相殺適状)。

 

実は,法律上は,自働債権・受働債権の双方の弁済期が到来していることが必要とされているのですが,受働債権,つまり自己が負っている債務について支払期日が来ているかどうかは実際には問題になりません

 

どういうことか先の例でもう少し説明しますと,受働債権,つまり自分の債務については,支払期日がまだ来ていなくとも,Aがそれでも良しとして相殺すれば,Aは500万円をBから回収したことになると同時に,自分の買掛債務500万円も期限到来前に支払ったということになるわけです。

 

 

支払期日が定められている場合,支払期日まで債務を弁済しなくて良いというメリットは,債務者であるAに認められた利益です。この利益をAが享受しようが,放棄しようがAの自由だろうという考えです。そのため,A側からは,自分の支払期日の利益(「期限の利益」と呼びます。)を放棄して,相殺しても問題ないというわけです。

 

 

ただし,この場合にB側からの相殺は認められません。Bから見れば自働債権,つまりBのAに対する売掛債権の弁済期がまだ到来していないということになりますから,Aとしてはまだ支払わなくて良い時期に,Bから弁済を強制されることになるからです。

 

 

このような考えから,法律上は自働債権・受働債権双方の弁済期到来が相殺の要件とされているにもかからず,判例で自働債権の弁済期のみ到来していれば,受働債権の弁済期が到来しているか否かにかかわらず,相殺できるとされているのです。

 

Bが破産してしまっても,なおAはBに対する債権をもって相殺できるのでしょうか。

このような場合でも,破産法によって相殺することが認められています。  

 

破産手続きは,原則として担保を持たない一般債権者を平等に扱い,債務者の財産を配当するのが建前です。

 

そのため,Bが破産した場合,Aに対する売掛金を含めたBの有するすべての財産は全債権者のために管理されるべきことになります。

 

そうすると,Aが相殺権を行使するということは,自己のBに対する貸付金のうち500万円を優先的に回収してしまうことを意味しますから,本来問題があるはずです。

 

 

つまり,Bに他の債権者,C,D,E,Fがいたとした場合,BのAに対する売掛金500万円はA,C,D,E,Fの5人の債権者全員のために平等に目的となるはずのものです。

 

 

しかし,Aが自己の有する貸付金と買掛を相殺することで,Aだけが抜け駆け的に500万円をBから回収してしまうことを認めることになります。

 

 

これを破産法は許容しているのです。それは,ここでも,前述した相殺の担保的機能,つまり「Bへの貸付金はいざとなれば自分の買掛と相殺してしまえばよい」という期待への保護を優先しているのです。

 

このように,相殺は担保的な機能を相当に果たしており,債権回収の場面では威力を発揮します。

  

 

AのBに対する貸付金債権(自働債権)が支払期日に達していなくても,Bが破産した際に相殺できるのでしょうか。

破産法はこの場合にも相殺を認めています。

 

本来,自働債権が弁済期に達していない場合,相手方は支払いを強制されるべき立場にはありませんから,相殺が禁止されているはずです。

 

 

しかし,破産法には,破産開始決定が出された場合,期限が未到来の債権であったとしても,開始家決定により期限が到来したものとみなすという規定があります。

 

 

そのため,Bについて破産手続き開始の決定が出された段階で,Aの貸付金債権の弁済期が到来し,これをもって相殺が可能となるのです。

 

 

ただし,債権者が債務者の破産手続き開始後に当該債務者に対して取得した債権では相殺ができないとされています。

 

また,債務者が支払い停止の状態にある,または,債務者について破産手続き開始の申し立てがなされた後に,これを知って債権者が当該債務者に対して取得した債権でも同様に相殺が禁止されています。

 

これらの事情がある場合,当該債権者の相殺の担保的機能への期待を保護する必要はないという理由からです。

 

 

では,Bについて会社更生がなされた場合でも相殺できるんですね。

いいえ。会社更生法には破産法のような規定がないため,先の例では,AはBに対する貸付金債権をもって相殺はできないことになります。

 

会社更生法には,前記破産法に対応する規定がないため,Aの自働債権が弁済期に達していない以上,Aは相殺をすることができません。

 

 

そこで,この点の不都合を回避するために,事前にいわゆる「期限の利益喪失条項」という約定をBとの金銭消費貸借契約(貸付金契約)書に定めておくことが重要です。

 

 

期限の利益喪失条項とは,例えば,債務者につき,破産,民事再生,会社更生などの手続きの申し立てがあった場合,債権者が何もしなくとも自動的に当該債務者の債務について期限が到来すると定めた条項を言います。

 

 

これにより,Bに会社更生開始の申し立てがなされた段階で,AのBに対する貸付金債権の期限が到来し,AはBに対して相殺の意思表示を行うことが可能になるのです。

 

多くの金銭消費貸借契約書でこのような条項を定める理由の一つがこの点にあります。

 

 

相殺予約条項というのはどういうものですか。

相殺予約条項とは,弁済期の到来にかかわらず相殺を可能にしてしまう条項のことです。

 

前述したとおり,相殺が認められるには,AがBに対して有する自働債権の弁済期が到来していなければ,A側からの相殺は認められません。

 

しかし,これでは,Bに信用不安が生じた場合に仮にまだBのAに対する債務の弁済期が到来していなければ,Aは相殺による債権回収ができないということになってしまいます。

 

 

そこで,前述の期限の利益喪失条項が一定の役割を果たすわけですが,Bが倒産手続きを開始したり,不渡りを出したりすれば,Bの信用不安はわかりやすいですが,そうでない場合,どのようなときにBが期限の利益を喪失して,Aが相殺できるのか曖昧だったりします。

 

 

そのため,およそAがBに対して取得する債権は,弁済期の到来の有無にかかわらず,いつでもAの一存により相殺できるという条項を定めることがあります。

 

 

このような条項も契約自由の原則により認められています。ただし,Aの意思表示なくして自動的に相殺したことにするという条項には問題が生じるので,おすすめしません。

 

 

相殺予約条項とは,例えば,以下の様なものです。

 

「AがBに対して債権を有する場合,そのいずれについても,当該債権につき弁済期が到来しているか否かにかかわらず,Aは,いつでも,当該債権をBに対して負担する債務と対当額で相殺することができる。」

 

 

 

相殺の権利を確保しておくのに他に注意すべき点はありますか。

債権譲渡禁止特約を付けておく方がよろしいでしょう。

 

先にご説明したとおり,相殺が認められるためには,互いに対立する債権を持つという関係がなければなりません。

 

 

つまり,例えば,AがBに対する債権をもって,AがBに対して負担する債務を相殺したいと思っても,BがAに対する債権(Aにとっての債務)を第三者に譲渡してしまえば,AとBとの対立する債権債務関係という相殺の要件を充たしませんので,相殺が封じられてしまいます。

 

 

このようなことにならないように,債権譲渡を禁止しておくことをおすすめしています。

  

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