片山法律会計事務所 弁護士 菊地正登
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「2013年4月1日施行の有期雇用に関する労働契約法の一部改正について教えて下さい。」

 

 今回の改正は,有期雇用契約の労働者に関する改正です。有期雇用契約の労働者とは,その名のとおり,労働契約の期限に定めがありその期間が満了したときに労働契約が終了する労働者を指します。

 例えば,契約社員などがこれに当たります。

 

 では,どのように改正されたのかまずは厚生労働省のウェブサイトの該当部分を以下に引用します。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002hc65.html

 

 改正の3つの ポイント

1.有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換

 有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合(※1)は,労働者の申込みにより,
無期労働契約(※2)に転換させる仕組みを導入する。

 (※1) 原則として,6か月以上の空白期間(クー リング期間)があるときは,前の契約期間を通算しない。

 (※2) 別段の定めがない限り,従前と同一の労働条件。

 2.「雇止め法理」の法定

 雇止め法理(判例法理)(※)を制定法化する。

 (※)有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合,
または有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき,合理的期待が認められる場合には,雇止めが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,有期労働契約が更新(締結)されたとみなす。

 3.期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

 有期契約労働者の労働条件が,期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合,その相違は,職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して,不合理と認められるものであってはならないものとする。

(施行期日:2については公布日(平成24年8月10日)。

1,3 については公布の日から起算して1年以内の政令で定める日。)」


 以上が改正のポイントです。 

 

 

 改正ポイント2の雇い止めの法理とは

 施行について注意を要するのは2(雇い止め法理の制定法化)については既に施行されているという点です。

 この雇い止め法理については,既に判例で確立されたルールであるため,企業の対応準備は不要と判断され,公布と同時に施行されたのでしょう。

 今回の改正のメインは1(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)ですが,
この2について最初に簡単に説明しておきます。

 有期雇用は期限を定めて労働者を雇用しているわけですから,原則としてその期間が満了すれば労働契約が終了し,労働者はもはや当該会社で労働することはできません。

 そして,有期で雇用した以上,会社はその労働者を再度雇用しなくとも問題ないはずです。
これを俗に「雇い止め」と呼んでいます。

 しかし,例えば,会社がその労働者との有期雇用契約を何度か更新し,有期雇用を繰り返していた場合,当該労働者は雇用継続を期待するであろうから,このような期待を全く保護しなくて良いものかというのが判例の問題意識です。

 この点の著名な最高裁の判例としては,東芝柳町工場事件(昭和49年7月22日)が挙げられます。

 同判例では,以下のように判示し,労働者の雇い止めを認めず,雇用契約の存続を認めました。


 「会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであって,実質において,当事者双方とも,期間は一応2ヶ月と定められてはいるが,いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意志であったものと解するのが相当であり,従って本件各労働契約は,期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず,本件雇止めの意思表示は契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから,実質において解雇の意思表示にあたる・・・そうである以上,本件雇止めの効力の判断にあたっては,その実質にかんがみ,解雇に関する法理を類推すべきである。」


 上記判例の判断のポイントとしては,


①「機械的」に労働契約が更新されていたか,


②雇用継続があるという期待を労働者に抱かせる言動を経営者側がしていたかどうか,


③当該会社に過去に雇い止めの事実が他の労働者についてどれほどあったかなどです。


 もう少し詳しく知りたい方は,下記厚生労働省のPDFの 4頁以下をご覧下さい。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/14.pdf


 今回の労働契約法の改正は,このような判例の考え方を法律で明確化したということになります。

 したがって,経営者の皆様は引き続き,雇い止めが認められない場面があることを認識しつつ,雇い止めを実行するにはこれまでの判例の考え方に基づいて適切に対応しなければならないことに変わりありません。

 なお,改正のポイント3(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)には特段の解説を必要としないでしょうから割愛します。

 

 改正ポイント1の有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換について

 最も問題になるのは1(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)の改正点でしょう。

 この改正も労働者保護の観点からなされたものです。

 有期雇用者であったとしても,通算5年間にもわたって契約の更新をした場合,当該労働者はもはや正社員(無期契約の労働者)のように労働契約の継続を期待するであろうから,当該労働者が雇用の継続を望む場合にはその期待を保護すべきであろうという考えに基づいています。

 

 もう少し詳しく説明します。例えば,1年間の有期雇用契約をある労働者と締結したとしましょう。

この労働者と契約を更新し続けた場合,5回目の更新で通算5年間を超えることになります。

 そのため,5回目の契約期間が満了する日までに,労働者がその満了日の翌日から始まる期間の定めのない契約(無期契約)を申し込むかどうかが焦点となります。

 

 仮に当該労働者が無期雇用を望み,上記期間内にその旨を通知すれば,会社はこれを承諾したものとみなされ,無期限の雇用契約が成立することになります。


 ここで,新たに労働者に成立する無期契約とはどのような内容になるのでしょうか。

 この点,改正法では「別段の定めがない限り,従前と同一の労働条件」になると定められています。

 したがって,あくまで契約期間が無期限となるのみで,労働時間,賃金,その他の労働条件については,別に条件変更の合意をしない限り,以前の有期雇用契約の内容と同一ということとなります。

 

 つまり,正社員へ切り替えることが会社に義務付けられるということではありません。この点は,正社員と,有期雇用から無期雇用へ転換された社員との二極化を生むという批判もされているところですが,現在の改正ではこの点は二極化を是認していると言えます。

 無期雇用契約に転換した後は,もはや期間終了による労働契約の終了という概念はありませんから,
仮に経営者が当該労働者の能力や働きぶりなどに問題を感じ,辞めさせたいと考えたとしても,当該労働者が自主的に退職しない以上は,「解雇」により辞めさせる方法を取らざるを得ません。

 日本では解雇に対する規制は厳しいですから,一般には当該労働者を辞めさせることは困難でしょう。
この点注意が必要です。


 では,話を戻して,無期契約に転換するために必要な更新期間の通算5年の間に,一旦雇い止めするなどして契約が継続していない期間(空白期間またはクーリング期間)があった場合,その期間の扱いはどうなるのでしょうか。

 この場合,空白期間が6ヶ月未満(直前の契約期間が1年未満ならその2分の1の期間)であれば,
当該空白期間は無視され,通算の5年間がカウントされ続けます。


 ただし,もし空白期間が6ヵ月以上のであった場合は,一度リセットされ,それ以前の期間は通算しないこととされています。


 つまり,労働者は,これまでカウントされた分を失い,ふりだしに戻って最初から5年間の通算期間をまた積み上げなければならなくなります。

 ここで,6ヶ月間の空白期間を設けさえすれば,有期雇用契約を繰り返すことができるのでしょうか

 

 6ヶ月間当該労働者が働かないことは現実的ではないかもしれませんが,直前の契約期間が1年未満,例えば,半年であった場合には,3ヶ月の空白期間を空ければ良いことになるため,これなら現実的かもしれません。


 また,一旦雇い止めして,要求される空白期間(上記後半の例なら3ヶ月)だけ当該労働者を委任契約や請負契約で使用しておき,また有期雇用に戻して働かせながら空白期間を設定するということも理論的に考えられます(このようなことは派遣業でも問題になっていま す。)。

 

 これは有効な手段でしょうか。答えはNOだと思われます。

 このようないわば脱法的なやり方は,後に定められるこの点の厚生労働省令(改正労働契約法18条2項に同省令が定められる旨規定されてい ます)または裁判所により否定される可能性が高いと言えるでしょう。

 

 したがって,経営者の方はこのような考えの下,有期雇用を利用することは避けるべきだと思います。


 この改正により,多くの企業で更新期間5年超過前に大量の雇い止めがなされるのではないかと言われてもいます。しかし,単純に更新期間5年超過前に雇い止めしてしまえば良いという考えも危険です。


 雇い止めには前述した改正ポイント2の「雇い止め法理」が存在していますから,単純にこの法改正を受けて,無期雇用への転換を避ける目的のみで雇い止めを行うと,雇い止めが認められないことも考えられます。


 したがって,そう話は簡単ではないでしょう。


 この無期雇用への転換についての改正は,2013年4月1日から施行されることになっています。

 どの有期雇用契約に本改正が適用になるのかという点は,経過措置が定められており,改正労働契約法の施行日以後の日を契約期間の初日とする有期労働契約に適用し,施行日前の日が初日である有期労働契約は,「5年」の期間に算入しないこととされています。

 

 したがって,例えば,2013年3月の時点で1年の有期労働契約を反復更新している企業があったとして,当該有期雇用契約の労働者から無期雇用への申込みをされうるのは,2018年4月からということになります。

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